上の階から水が漏れてくるという事態は、単に物が壊れるだけでなく、住人の精神に多大なストレスを与えます。夜中に突然水滴が落ちてくる恐怖や、お気に入りの品々が無残に濡れていく様子を目の当たりにする悲しみは計り知れません。そのため、損害賠償を請求する際に「慰謝料」を望む方は非常に多いのですが、実務上の相場としては、水漏れによる慰謝料が認められるハードルはかなり高いと言わざるを得ません。法律の世界では、財産的な被害が補填されれば精神的な苦痛も同時に癒やされるという考え方が一般的であり、物が壊れたことに対する賠償とは別に慰謝料が支払われるケースは限定的です。もし慰謝料が認められるとしたら、その額は数万円から、高くても十万円程度が一般的です。例えば、水漏れが原因で長期間自宅を使えなくなり、生活基盤が著しく破壊された場合や、加害者が明らかに嫌がらせとして水を流し続け、再三の抗議にも応じなかったような悪質なケースでは、二十万円程度の慰謝料が認められることもあります。しかし、単なる不注意や配管の経年劣化による水漏れでは、内装の修繕費と家財の時価額の支払いのみで終わることがほとんどです。また、病気や怪我との因果関係が証明できる場合は、別途治療費や入通院慰謝料の請求が可能になります。水漏れによる湿気で喘息が悪化したり、濡れた床で転倒して骨折したりした場合には、それらは対人賠償の範疇となり、対物賠償とは異なる基準で計算されます。このように、水漏れトラブルにおける賠償金の構成は、そのほとんどが「物に対する損害」で占められており、心の傷を金銭で癒やすための枠組みは極めて限定的であるというのが、現在の日本の法制度における相場感です。被害者としては納得しがたい部分もあるかもしれませんが、交渉を円滑に進めるためには、精神的な苦痛を訴えるよりも、まずは客観的な被害額、つまりクリーニング代や修理代の領収書、廃棄せざるを得なくなった物品のリストを正確に作成することに注力する方が、結果として納得感のある解決に近づく近道となるでしょう。
上の階からの漏水トラブルで支払われる慰謝料の相場と算定基準